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高松地方裁判所 昭和35年(ワ)312号 判決

原告 太田子一

被告 瀬尾キクエ

主文

訴外樽石勝江が別紙目録〈省略〉(一)(二)(三)(五)記載の不動産を昭和三五年四月一〇日被告に贈与した行為はこれを取消す。

被告は原告に対し、別紙目録(一)ないし(三)記載の土地につき、昭和三五年四月一八日高松法務局受付第八四一三号をもつてなされた所有権移転登記ならびに別紙目録(五)記載の建物につきなされた所有権保存登記の各抹消登記手続をせよ。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

原告は、「訴外樽石勝江が別紙目録(一)ないし(六)記載の各不動産を昭和三五年四月一〇日被告に贈与した行為はこれを取消す。被告は原告に対し、別紙目録(一)ないし(四)記載の各土地につき、昭和三五年四月一八日高松法務局受付第八四一三号をもつてなされた所有権移転登記ならびに別紙目録(五)(六)記載の各建物につきなされた所有権保存登記の各抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。

一、訴外太田頼義(原告の兄)は、有限会社太田工業所を経営していたものであるところ、昭和三三年八月頃右会社の経営が破綻し、その負債整理のため、右頼義所有に係る高松市西浜町四〇六番地の一三宅地一二〇坪、同所四〇六番地の三三宅地一八七坪、および同地上建物(以下西浜町所在不動産という)を訴外樽石勝江に譲渡したものであるが、右不動産および当時原告の所有であつた高松市太田上町字皿井一、一七五番地宅地一四〇坪および同地上建物(以下太田上町所在不動産という)には、前記有限会社太田工業所の訴外株式会社兵庫相互銀行に対する債務を担保するため、同銀行のために抵当権が設定されていたので、この処理に関して、昭和三三年一二月二三日前記太田頼義および原告と樽石勝江との間において、次のような内容の契約が締結され、その旨の公正証書が作成された。

(一)  樽石勝江は太田頼義から西浜町所在不動産を株式会社兵庫相互銀行のため設定された抵当権附債務負担のまま譲り受けるとともに、有限会社太田工業所の右兵庫相互銀行に対する債務金二四一万円の支払いを引受け、原告に対しては、昭和三四年一二月二二日までに原告所有の太田上町所在不動産に設定されている兵庫相互銀行の抵当権を消滅させること。

(二)  もし、樽石勝江が昭和三四年一二月二二日までに右抵当権を消滅させることができなかつた場合は、右樽石は原告に対し損害賠償の趣旨で金一二〇万円を支払うこと。

二、しかしながら、その後昭和三四年三月一二日前記兵庫相互銀行が西浜町所在不動産及び太田上町所在不動産に対し抵当権に基き競売の申立をなしたものであるが、樽石勝江は約旨に反し昭和三四年一二月二二日までに、太田上町所在不動産に設定されている兵庫相互銀行の抵当権を消滅させることができなかつたので、ついに右各不動産は競売に付され、昭和三五年八月一一日訴外出石稔に対し競落が許可され、原告は太田上町所在不動産に対する所有権を喪失した。従つて原告は昭和三四年一二月二三日右樽石勝江に対し、前記公正証書記載の約定に基き金一二〇万円の損害賠償債権を取得するに至つた。

三、ところが右樽石勝江は突如昭和三五年四月一〇日同人所有に係る別紙目録(一)ないし(六)記載の各不動産を全部妻である被告に贈与し、その翌一一日被告との協議離婚の届出をなした。而して、別紙目録(一)ないし(四)記載の各土地については、昭和三五年四月一八日高松法務局受付第八四一三号をもつて樽石勝江より被告に対し贈与に因る所有権移転登記が、また別紙目録(五)(六)記載の各建物については、当時未登記であつたため昭和三五年一二月一九日被告のために所有権保存登記がそれぞれなされている。

四、而して、右樽石勝江は別紙目録記載の各不動産以外に資産を有していなかつたものであり、被告に対する前記贈与行為は、原告の右樽石に対する前記損害賠償債権を害することを知つてなした法律行為というべきである。

よつて、原告は民法第四二四条に基づき、債務者たる樽石勝江がなした前記不動産贈与行為の取消、ならびに被告に対し別紙目録(一)ないし(四)記載の各土地につきなされた所有権移転登記および同(五)(六)記載の各建物につきなされた所有権保存登記の各抹消登記手続を求めるため、本訴請求に及んだ。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、請求原因事実一および二の中、訴外太田頼義所有の西浜町所在不動産および原告所有の太田上町所在不動産に対し、訴外有限会社太田工業所の株式会社兵庫相互銀行に対する債務を担保するため、同銀行のために抵当権が設定されていたこと、昭和三三年一二月二三日訴外樽石勝江、同太田頼義および原告間において、原告主張のような内容の公正証書が作成されたこと、前記兵庫相互銀行が昭和三四年三月一二日西浜町所在不動産および太田上町所在不動産に対し抵当権に基き競売を申し立て、競売の結果右各不動産は昭和三五年八月一一日訴外出石稔に対し競落を許可されたことは、いずれもこれを認めるが、その余の事実を否認する。訴外太田頼義から西浜町所在不動産を譲り受けた実質上の買主は、訴外安藤諭である。すなわち、右安藤は当時鉄工業を営む三起工業株式会社の代表取締役で、同会社の工場用地を物色していたところ、右太田頼義所有に係る西浜町所在不動産を見つけ、調査したところ、右不動産には前記のように株式会社兵庫相互銀行のため抵当権が設定されていた上、前記有限会社太田工業所の訴外太田友次郎に対する金五五万円の債務を弁済しないと代物弁済として提供しなければならないような事情にあつたので、右安藤はまず、右太田友次郎に対し金五五万円を代位弁済し、兵庫相互銀行に対する債務は、西浜町所在不動産を使用して工場を経営する収益により逐次支払つていく考の下に、西浜町所在不動産を訴外太田頼義から買い受けたものである。もつとも、右買受にあたつては、安藤諭に他に負債があり、且つ事業が予定通り進展しない場合を考慮し、かねて同人と取引関係のあつた樽石勝江の名義を借用し、買主を右樽石勝江となしたのである。而して原告主張の公正証書は右売買契約成立後に作成されたものであるが、右樽石勝江は、鳶職でいわゆる職人肌の義侠的性格の持主であつたため、右安藤より名義借用方の依頼を受けるや、安易に形式上買主名義人になることを承諾し、公正証書の作成に際しても、原告らと同道して公証人役場へ赴いたが、右樽石は売買のため必要な書類を作成するものであると考えていたので、公正証書の内容については全く関心を持たず、原告主張のような損害賠償契約を内容とする公正証書が作成されたことを知らなかつたものである。従つて原告主張の公正証書は、樽石勝江の意思に基かないで作成されたものであり、右樽石は原告との間に原告主張のような損害賠償契約を締結した事実はない。以上のような次第であるので、原告は右樽石に対し金一二〇万円の債権を取得していないというべきである。

二、請求原因事実三、四の中、訴外樽石勝江が昭和三五年四月一〇日同人所有に係る別紙目録(一)ないし(五)記載の各不動産を妻である被告に贈与して、その翌一一日右樽石と被告とが協議離婚の届出をなしたこと、別紙目録(一)ないし(四)記載の各土地につき、原告主張のような所有権移転登記、ならびに別紙目録(五)(六)の各建物につき、原告主張のような所有権保存登記が被告のためにそれぞれなされていることは、いずれもこれを認めるが、その余の事実を否認する。

前記のとおり、原告は訴外樽石勝江に対して金一二〇万円の損害賠償債権を有していないので、右樽石がなした前記贈与行為は何等詐害行為を構成しない。仮に、原告が右樽石に対して原告主張のような損害賠償債権を有していたとしても、被告は右樽石と協議離婚をなすに際し、財産分与として同人から別紙目録(一)ないし(五)記載の各不動産を譲り受けたのであるから、右行為は詐害行為取消の対象にならないものである。なお別紙目録(六)記載の建物は、建築当初から被告の所有に属するもので、右樽石から譲り受けたものではない。よつて、原告の本訴請求は失当である。〈証拠省略〉

当裁判所は職権で原告本人を尋問した。

理由

一、先ず原告が訴外樽石勝江に対し金一二〇万円の損害賠償債権を有しているか否かについて審按する。

昭和三三年一二月二三日、訴外太田頼義および原告と訴外樽石勝江との間において、原告主張のような内容の公正証書が作成されたことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一、二、同第八号証の一、二に証人太田頼義の証言、同安藤諭の証言の一部(後記措信しない部分を除く)、ならびに原告本人尋問の結果を綜合すれば、訴外太田頼義(原告の実兄)は、有限会社太田工業所を経営していたが、同会社が事業不振となつたので、昭和三三年八月頃同会社が工場として使用していた右太田頼義所有の西浜町所在不動産を売りに出していたところ、訴外三起工業株式会社の代表取締役をしていた訴外安藤諭から同会社の工場移転先として、右不動産買受方の申し入れがあり、同人との間に西浜町所在不動産売買の交渉が進められたこと、而して右太田工業所は、訴外株式会社兵庫相互銀行に対し、約金二四〇万円の債務を、また訴外太田友次郎に対し金五五万円の債務を負担して居り、右太田頼義所有に係る西浜町所在不動産および原告所有に係る太田上町所在不動産につき右兵庫相互銀行のため抵当権が設定され、且つ前記太田友次郎のため売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされていたこと、そのため右太田頼義および原告と右安藤諭との間において、買主が前記太田工業所の各債務支払いの責任を負い、且つ原告所有の太田上町所在不動産に対する抵当権を消滅させること等を条件として、昭和三三年一二月中頃西浜町所在不動産売買の話がほぼまとまつたこと、然るに売買契約書に調印がなされないうちに右安藤諭は、前記太田友次郎に対し、前記太田工業所の債務金五五万円を代位弁済し、その際太田友次郎よりさきに前記太田頼義が太田友次郎に手交してあつた白紙委任状を受領し、これを勝手に利用して、昭和三三年一二月一七日西浜町所在不動産につき訴外樽石勝江名義に売買による所有権移転登記をなしたこと(右樽石勝江は鳶職を業とする者であるが、かねて安藤諭と知合であり、同人に対しその頃約金二〇〇万円を貸与していた)、太田頼義および原告は、間もなく右のことを知り、安藤諭に対し強硬に抗議したところ、同人は自分が責任をもつて原告らには迷惑をかけないと言明したが、既に西浜町所在不動産が前記樽石勝江名義に登記された以上、兵庫相互銀行に対する債務決済等につき第一次的に右樽石に責任を負担してもらう必要があると考え、安藤のみならず右樽石にも直接交渉した結果、右樽石及び安藤の責任を明確にするため、西浜町所在不動産売却に伴う附随契約につき、太田頼義、原告、樽石勝江および安藤諭の四者間において、公正証書を作成することとなつたこと、公正証書作成については、樽石は安藤にすべて一任するとのことであつたので、同年一二月二二日原告、訴外太田頼義、同安藤諭間でその原案を練り、西浜町所在不動産の所有名義人となつた樽石勝江において、原告所有に係る太田上町所在不動産の抵当権を一年以内に消滅させること、若し消滅させることができなかつた場合は、右樽石が原告に対し損害賠償の趣旨で右不動産の当時の価格である金一二〇万円を支払うことを骨子とした案がまとまつたこと、そこで翌二三日の朝、原告は樽石勝江を三起工業株式会社事務所附近に呼出し、同人に対し右公正証書の案を説明したところ、同人はこれを承諾したこと、そこで同日太田頼義、原告、樽石勝江および安藤諭の四名が、公証人岡村三郎の役場へ赴き、原告主張のような内容の公正証書(甲第一号証参照)を作成したこと、右公正証書作成に当つても、岡村公証人が前記四名の面前でその条項を読み聞かせ、樽石勝江もこれを承認して自ら捺印したこと等の諸事実を認めることができる。

以上認定の諸事実に徴すれば、訴外樽石勝江は、前記公正証書の内容を充分了解していたものと認めるのが相当であり、昭和三三年一二月二三日原告と右樽石勝江との間において、樽石が昭和三四年一二月二二日までに原告所有の太田上町所在不動産に対する兵庫相互銀行の抵当権を抹消すること、若し樽石が右期日までに右抵当権を抹消することができなかつたときは、原告に対し損害賠償として即時金一二〇万円を支払うことを内容とする契約が締結された事実を肯認するに十分である。証人安藤諭の証言および共同被告(取下前、以下同じ)樽石勝江本人尋問の結果中、右認定に反する部分は、証人太田頼義の証言および原告本人の供述と対比して信用し難く、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。なお被告は訴外樽石勝江は訴外安藤諭より依頼されて、単に買主名義人になつたに過ぎず、本件公正証書の作成にも無関心であつて、本件公正証書は樽石の意思に基くものではない旨主張するけれども、本件公正証書が作成されるに至つた経緯は、前認定のとおりであつて、被告の主張する樽石勝江の職業、性格などを考慮に容れても、未ださきの認定を動かすことはできない。

而して株式会社兵庫相互銀行が昭和三四年三月一二日太田上町所在不動産に対し抵当権に基き競売申立をなし、競売の結果昭和三五年八月一一日訴外出石稔に対し競落を許可されたことは当事者間に争がなく、訴外樽石勝江は、前記約旨に反し太田上町所在不動産の抵当権を昭和三四年一二月二二日までに消滅させることができなかつたこと明らかであるから、右期限の翌日である同年一二月二三日、原告は右樽石勝江に対し、前記契約に基き、金一二〇万円の損害賠償債権を取得するに至つたものといわなければならない。

二、そこで、次に訴外樽石勝江が別紙目録記載の各不動産を被告に贈与した行為が原告に対し詐害行為を構成するか否かについて判断する。

右樽石勝江が妻である被告に対し昭和三五年四月一〇日同人所有の別紙目録(一)ないし(五)記載の各不動産を被告に贈与し、翌一一日被告との協議離婚届出をなしたこと、別紙目録(一)ないし(四)記載の各土地につき昭和三五年四月一八日高松法務局受付第八四一三号をもつて、右樽石より被告に対し贈与に因る所有権移転登記が、また別紙目録(五)(六)記載の各建物につき昭和三五年一二月一九日被告のための所有権保存登記がそれぞれなされていることは、当事者間に争いがない。

なお、被告は別紙目録(六)記載の建物は、建築当初から被告の所有であつて、樽石勝江から贈与を受けたものではないと主張するけれども、成立に争いのない甲第七号証および共同被告樽石勝江本人尋問の結果によれば、右建物は右樽石勝江が建築してこれを所有していたが、昭和三五年四月一〇日他の所有不動産と共に被告にこれを贈与した事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

而して、前記争のない事実及び右認定事実に、成立に争のない甲第九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証並びに原告本人尋問の結果を綜合すれば、前記公正証書作成後、太田上町所在不動産等に対して訴外株式会社兵庫相互銀行が抵当権に基き競売の申立をしたので、原告が訴外樽石勝江に対し、前記公正証書の約定どおり右兵庫相互銀行へ債務を弁済して、太田上町所在不動産の抵当権を消滅させてくれるよう再三請求したところ、右樽石は原告と同道して右兵庫相互銀行へ赴き種々交渉し、昭和三五年二月頃には、同年三月末までに右兵庫相互銀行へ自ら責任をもつて債務を弁済する旨約したこと、しかし右樽石はその後一向に右弁済をなさず、右競売事件進行途上において、別紙目録記載の各不動産以外に何等資産を有しないにもかかわらず、同年四月一〇日妻である被告に対し別紙目録記載の各不動産を贈与し、翌一一日被告との協議離婚届出をなすと共に、別紙目録(一)ないし(四)の各土地については、同年四月一八日前記のように被告に対し所有権移転登記をなしたことを認めることができ、右認定事実に徴すれば、訴外樽石勝江は、同人に対する原告の前記損害賠償債権を害することを知りながらあえて右贈与行為をなしたものであることを推認するに十分である。共同被告樽石勝江本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できない。

もつとも、被告は、前記贈与は訴外樽石勝江と被告とが協議離婚した際の財産分与であつて、詐害行為を構成しない旨主張するにつき、判断を加える。

凡そ離婚に伴う財産分与であつても、分与者の財産状態が債権者取消権行使の要件を具備している場合、すなわち、その者が或財産を分与すれば無資力となるような場合には、分与者は本来分与すべき財産を有していないというべきであり、債務者が他に何等資産を有しないにもかかわらず、離婚に際し或財産を分与した場合は、債権者取消権の他の要件を具備する限り、詐害行為として、債権者よりの取消の対象となり得るものと解するを相当とするところ、訴外樽石勝江は、原告に対し前記のような損害賠償債務を負担していたこと、別紙目録記載の不動産以外に何等資産を有していなかつたことさきに認定した通りであるから、仮に被告に対する前記不動産贈与が被告主張のように協議離婚に伴う財産分与としてなされたものであつたとしても、債権者たる原告に対して詐害行為を構成することを否定できない。従つて被告の前記主張は理由がない。

三、ところで、債権者取消権は詐害行為によつて生じた債務者の一般財産の減少を防ぎ、債権の満足をうることを目的とするものであるから、その取消の範囲もそれに必要な限度を超えることを得ず、右取消の範囲は、取消権を行使する債権者の債権額(詐害行為当時を標準とする)を基準にするのが相当と解される。今本件について観るに、原告の訴外樽石勝江に対する債権額は、前記認定のように金一二〇万円であるのに対し、右樽石が被告に贈与した別紙目録記載の各不動産の価格は、鑑定人中原直義の鑑定の結果によれば、昭和三七年四月二日現在において、別紙目録記載(一)の宅地が金三一一、一六〇円、同(二)の宅地が金一一五、二〇〇円、同(三)の宅地が金六一六、〇〇〇円、同(四)の宅地が金三〇九、六〇〇円、同(五)の建物が金二五〇、〇〇〇円、同(六)の建物が金一二五三、二〇〇円、以上合計金二、八五五、一六〇円であることが認められ、右各不動産の価格合計額は、原告の債権額を相当上廻つていること明らかである。なお、右価格は本件口頭弁論終結時においてもほぼ同額であると認めるのが相当である。そうだとすれば、原告の本件債権を満足させるには、本件贈与行為全部を取消す必要はなく、別紙目録(一)ないし(三)記載の各土地および同(五)記載の建物(価格合計金一、二九二、三六〇円)についての贈与行為を取消すをもつて足りるというべきである。

而して受益者たる被告において、右各不動産の贈与を受けた当時債権者たる原告を害することを知らなかつたことを窺うに足る証拠はないから、原告の本訴請求中訴外樽石勝江が昭和三五年四月一〇日被告に対し別紙目録(一)ないし(三)記載の各土地および同(五)記載の建物を贈与した行為の取消、ならびに被告に対し、別紙目録(一)ないし(三)記載の各土地につき昭和三五年四月一八日高松法務局受付第八四一三号をもつてなされた贈与に因る所有権移転登記および別紙目録(五)記載の建物につき被告のためになされた所有権保存登記の各抹消登記手続をなす、ことを求める部分は、理由があり、その余の部分は失当であるといわなければならない。

よつて、原告の本訴請求は、右の限度において正当であるので該部分を認容し、その余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浮田茂男)

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